Hush-Hush: Magazine

映画の批評・感想を綴る大衆紙

A KITE / ミニマルなヴァイオレンス

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新年一発目の記事。どの作品にしようか迷った。攻殻機動隊も2ndシーズンはがっつりレビューしたけど、1stシーズンは手つかずだし…… 年末になると必ず観ている『タイタニック』と『イノセンス』も紹介してないし………

なにより、Hush-Hush: Magazineの元ネタたる『L.A.コンフィデンシャル』にいたっては、一年間もほったらかしにしている始末。

で、これだけ前置きしておいて、新年一発目の作品はというと……梅津泰臣さんによるカルト的、伝説的アニメ――『A KITE』である。(おい、)

年末、Twitterを眺めていると、ふとタイムラインに流れてきたのが『A KITE』のGIF動画。あの有名な地下鉄での壮絶な戦闘シーンが流れてきたのだ。初めてこの作品を観たのは、かれこれ10年くらい前のこと。大友さんの『AKIRA』を初めてみたときと同じくらいの衝撃を受けたことを覚えている。これは天啓だと勝手に思い込み、除夜の鐘がせまる大晦日の夕方に「新年一発目はこれでいこう」と決意。

で、実際にこれを書いているのは、それから10日が経った頃というオチ。

 

はい、前振りはこのへんで、そろそろ本題へ。あ、今年もHush-Hush: Magazineをよろしくお願いしナス。(テキトーか)

 

 

シンプルな暴力

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© 1998 アームス / グリーンバニー / ビームエンタテインメント

 

両親を殺害された少女が、その犯人に引き取られ殺し屋として生きる物語。なんとも悲哀に満ちたストーリーながら、そこで描かれるのは極限までそぎ落とされた「シンプルなヴァイオレンス」である。もともと、梅津氏がオリジナルアニメを作ろうと思い立ち、予算やら売り上げの見込みといったオトナの事情によってやむなく18禁アニメとなった本作。タランティーノが諸手をあげて絶讃するアニメといえば、推して知るべしである。

 

ヒットしたアダルト作品の常として、のちに全年齢版(もといユニバーサル仕様)がリリースされている。数年前には、熱狂的なファンも多い海外で実写映画化されている。

日本でもかなりマニアな作品である『A Kite』が、どうして海外だと『カウボーイ・ビバップ』に比肩する人気作品たりうるのか。洋画テイストな世界観、舞台設定もその一因だろうけど、なによりも容赦のない暴力描写が海外ファンの琴線に触れたのではないかと思う。

 

映像媒体がエンターテイメントの主流となって1世紀ほど。押井守監督の受け売りではないが、「暴力とセックス」――ヴァイオレンスとセクシャルな要素は、時代を越えてエンタメの基本形だった。『ゴッドファーザー』の初号試写を観た映画会社のお偉いさんが、若かりしコッポラ監督に「もうちょっと暴力描写を入れろ」と言ったのは有名な話。日本では、とかく絢爛豪華なキャスト陣に焦点が当たりがちな『アウトレイジ』──この作品が海外でもウケたのは、ひたすらに過剰な暴力描写があってこそ。

 

エンタメの基本形のもう一方――セクシャル。これに関しては今さら言葉を並べ立てるまでもないと思う。アクション映画では窮地を脱した主人公が危機感から生じた生存本能のおもむくままヒロインの大女優と「あっちょんぶりけ」なディープキスを交わすし、ネトフリで人気を博すドラマシリーズの大半が、過剰なベッドシーンを含んでいる。最近だとアクションコーディネーターよろしく、ベッドシーンの演出を専門に請け負うコーディネーターもいるんだとか。

 

リアルで生々しいベッドシーンこそないものの、日本のアニメ作品とて同様である。青春ラブコメもののテンプレたる「朝起きたら傍らに美少女がいた」とか「風呂に入ってたらなぜか勝手に女の子が入ってきた」とか。これらとて、セクシャルという点においては、実写映画のベッドシーンに相当するわけで。

 

で、話を戻すと……

 

そのエンタメの基本形たる「暴力とセックス」――この両者を併せ持つのが『A Kite』なのである。これが面白くないわけがない。いや、実際めちゃくちゃ面白い。で、なにがこの作品をそんなにカルト作品たらしめているのかというと、凄まじいアクションシーンなのだ。

 

アクション

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© 1998 アームス / グリーンバニー / ビームエンタテインメント

 

本作冒頭のエレベーターでのアクションシーン。この数分のアクションが、『A Kite』の特異性を象徴する。少女が銃を抜くまでの溜め。ヒッピー風の芸能人がいたいけな少女に言い寄り、それを冷然と見つめる壮年の女性。フラストレーションが徐々に高まり、ヒッピー男がキレた瞬間、少女が銃をすっぱ抜いて寸秒のうちに撃ち殺す。

静と動。急速に高まる緊張感。

この見事に計算されたコンパクトなアクションシーンで、18禁エロアニメを期待した視聴者は股間に冷水を浴びせられる。「なんかおかしいで、これは……」と自ら抱いた幻想を疑い始める。まぁ、そのじつ違うんだけど。

 

少女たち殺し屋が使う銃が、これまたクール。鞄の形をとっていながら、スライドすると中から拳銃が現れるというギミック。劇場版『攻殻機動隊』のオープニングで黒服のSPが使っていたアタッシュケース型サブマシンガンくらい、最高にクール。同じ「美少女×銃」といえば『ガンスリンガー・ガール』で楽器ケースに入ったサブマシンガンってのもあるけど、それと同じくらいクールなギミックである。

 

アクションシーンの作画は、本作リリースから20年以上経った今観ても、おもわず唸るほど凄まじい。「うわ、すげぇ」とか「これマジで神作画」とか、そういった次元をはるかに越えた凄まじさ。

アニメならではのケレン味のあるアクション。ヌルヌル動く爆煙、額に穿たれた銃痕、飛散する血しぶき。現実をそのまま切り取った実写映画よりも、はるかに現実味(リアリティ)のあるアクションシーン。同じ「うわ、すげぇリアル」でも実写のそれとアニメの場合では、受ける印象が格段に違う。

 

だって、冷静に考えてみたら、紙に書いた絵なのよ! 絵!!

その一枚の絵が連続すると、動きを獲得する。でもって、躍動感が生まれ、ケレン味が与えられ、重量感が溢れ出す。『オネアミス』のロケット発射シーンとか、『板野サーカス』とか、『ベルセルク』の決闘シーンとか、職人技を越えた神業の作画を挙げ始めるとキリがない。日本のアニメ作品は本当にすごい。同じケレン味でも、ディズニー作品のそれと日本のアニメでは、これまた違う。独創的にして斬新。マジでクール。(語彙力)

 

で、『A Kite』のクライマックス――地下鉄でのアクションシーンは、そんなジャパニメーションの本質が光り輝き、観る者すべての心胆を奪う。いや、奪い取るというか強奪するに近い。

 

クールジャパンの真髄

 

『A Kite』はシンプルな作品である。その極限まで削ぎ落とされたミニマルさが、暴力を際立たせる。ストーリーは、殺し屋の少女が同業の青年と出会い、復讐を果たすというシンプルなもの。尺も90分程度とコンパクトに収まっている。少女が辿った凄絶な過去は、くどくどと語れることなく映像だけで淡々と示されるし、少女たちが属する殺し屋集団もその実態は謎が多い。「語るな、見せろ」――映画関連の本で度々見かける呪文(モージョー)

 

言葉を並べて雄弁に語る小説媒体とは異なり、映像媒体は「映像」で「見(魅)せる」

それを極限まで押し進めたのが『A Kite』なのだ。

 

「余計な御託はいいから、とにかく見ろ」といわんばかりの潔さ。ある種のストイックさすら感じるミニマルな世界観。一切の余剰を剥ぎ取った先にある混沌とした暴力の極地。

 

それが『A Kite』なのだ。日本のアニメ史にその名を刻みつけ、カルト的なファンを生み出した伝説のアニメ。「クールジャパン」の「クール」たる結晶が、ここにある。