映画で振り返る2019年
2019年も残すところあと1日。振り返ってみると色々ありました。光陰矢のごとしとはよく言ったもので、年々時間の体感速度が上昇し続けているような気がします。
この雑多な(テキトーな)映画レビューブログをノリと勢いで始めたのが2019年の1月。そこから、同じくノリと勢いで同人活動を始めたのが7月頃。プライベートも、仕事も忙しさを増した1年。今年はあまり映画を観れなかった1年でございました。
さてさて、エクスキューズはこのへんで切り上げて、今年観た映画の中でも「こいつはすごい!!」という一級品をまとめてみました。スターウォーズが含まれていないのは、この記事を書いてる現在まだ観ていないから。もし観てたら絶対に入れてると思う。多分、知らんけど……
2019年ベスト映画
1: アイリッシュマン
2019年、ぶっちぎりのトップで大絶賛したのが『アイリッシュマン』
センス8、デアデビルと、私のお気に入り作品をことごとく打ち切ったネットフリックスにしびれを切らしていたのが今年の始め。一時期は解約すら検討したけれど、この作品を観るまではとりあえず……と自分に言い聞かせて契約更新。いやぁ、その甲斐は十二分にあった。
劇場で観たスコセッシ作品は、ウルフ・オブ・ウォールストリート以来。数年ぶりに映画館のどでかいスクリーンでスコセッシ作品を堪能し、ますますスコセッシ愛が強まった。
うん、やっぱりスコセッシ監督好きだわ。あのクレイジーな、作品全体を通して伝わってくる猛然たるエネルギーがいい。仕事サボってまで劇場へ足を運んだ甲斐は大いにありました。ありがとう、スコセッシ監督。
2: ジョーカー
MCUの圧倒的な勢力におされて存在が希薄になりがちなDCコミックス。捲土重来を期して公開された『ジャスティス・リーグ』が大コケし、いよいよ万事休すというところで公開された『ジョーカー』
正直なところ、あまり期待はしていなかった。『ダークナイト』が築いた不動の地位を揺るがすことはないだろうし、せいぜい次作のバットマン新章に向けたプレリュードくらいの作品なんだろうと思ってた。いやはや、ところがどっこい。
こいつぁたまげた。いや、ホントに。DCコミックスのブランドを冠して、ここまでぶっ飛んだ作品を作り上げるとは。ルサンチマン的な鬱屈たる悪感情を余すことなく爆発させる──このピカレスク的なカタルシスにハマる人続出。社会現象にもなり、口コミが口コミを呼び、イノセントでピュアな一般ピーポーが観に行って小首をかしげるという珍事態が相次いだ怪作でございます。
『ハングオーバー』の監督、トッド・フィリップスの辣腕ぶりにも脱帽だが、やはりホアキン・フェニックスの渾身の演技には言葉も出ないほど心服した。生まれて始めて映画の中の殺人シーンを観て、本気で心底怖いと思ったもんね。ありがとう、ホアキン。これも仕事ほっぽらかして観に行った甲斐はあった。(仕事しろよ)
3: ファーストマン
今年はこの映画で幕を開けました。デイミアン・チャゼル監督の新作とあって、期待を胸に劇場へ向かったあの日から、もう一年近くが経過しようとしております。ほんとに一年経つのってあっという間だわ。
ストーリー、キャラクター、映像、音楽──ほぼすべての要素が私の琴線に触れまくりのどストライクな作品でございました。映画のサントラでヘビロテしたのって、ほんと久しぶりだった。寡黙な中にも謹直なしたたかさを持ったニールという人物。劇中での彼はいささか寡黙すぎるほど、台詞を発しない。挙措や声の抑揚、目顔といったノンバーバルな部分で感情の一片を閃かせる。でもって、その繊細な演技をさらりとやってのけるライアン・ゴズリングの手腕。
彼の孤高な人生を体現した、静謐なサウンドトラック。16ミリフィルムを使った枯淡な映像美。それと対照的な、IMAXカメラを大々的に活用した月面着陸のシーン。文句なしの名作でございました。公開から一年近くが経過し、今やアマゾンプライムビデオで観られるようになったけれど、この没入的な映像体験はやはり映画館のどデカいスクリーンじゃないと味わえない。
この作品を劇場で観られた僥倖に圧倒的な感謝を。
4: ブラック・クランズマン
社会派映画の急先鋒、スパイク・リー監督。アカデミー賞をぶん取った『グリーンブック』に抗議の意を示し、会場を立ち去ったことで話題となった本作。
たしかに、エンタメ作品としては『グリーンブック』に軍配があがるのだけれど、私の心に突き刺さったのは『ブラック・クランズマン』の方だった。『ブラック・クランズマン』もエンタメしてるんだよね。エンタメしつつも、黒人差別というヘヴィなテーマをありありと描写した、ものすごくバランスのとれた作品。
劇中での描写もさることながら、ラスト15分で流れるKKKが実際に行った凶行の数々──それを収めたハンドカメラによる素人風の映像の破壊力たるや。憎しみが憎しみを呼び、その悪感情が延々と繰り返される負の連鎖。
どうして人は互いに理解しあうことができないのか。どうして人類史開闢してこのかた、世界から戦争は無くならないのか。どうして、人間は自分よりも下の人間を手前勝手につくりだして、クソちっぽけなプライドにしがみつこうとするのか。様々な想念がせめぎ合い、深く考えさせられた作品でした。
数年前にアカデミー賞を獲った『それでも夜は明ける』は、始終重たい空気が流れていて、正直なところ観ていてただただ苦しかったのだけれど、『ブラック・クランズマン』はエンタメ的要素も織り交ぜていて、そのあたりの均衡が非常にうまく設計されていると感じた。
近年、LGBTQの映画にとかくフォーカスがあたるようになってきた。私たちは多くを知っているようで無知だし、多くを見ているようで盲目だ。自分で思っているほど、現実に対して驚くほど無知だ。世界の裏側で起きている中東の紛争も、欧州で多発するテロも、ましてや西洋の人種差別も。
絶海の島国という土地柄、どうして世界から隔絶されがちである。だからこそ、こういった作品が必要なのだ。たまには世界の外側に目を向けて、クソ忙しい日常の中ではたと立ち止まって現実を見据える。その端緒となる作品が。
番外編:海外ドラマ
年の瀬になって今年観た映画を振り返って気づいた。思いのほか観ていた本数が少なかったということに。
自分でも驚いたくらい劇場で観た作品が少なかった。仕事が忙しくなってなかなか時間が確保できなかったといえば言い訳でしかないのだけれど、先日読んだ小島秀夫さんのインタビュー記事によれば、氏は年間200本は欠かさず観るのだとか。あの多忙を極める小島さんが200本ですよ! アタシも見習って、来年はもっと観よう……
ということで、映画だけだと少なすぎたので海外ドラマ編をば。
1:ラブデスロボット
初っ端のシーズンが創意に満ちすぎて、シーズンを重ねるごとに面白さが減退していった『ブラックミラー』シリーズ。それに対抗するかのごとく現れた超新星が『ラブデスロボット』である。
デヴィット・フィンチャーの名を冠したCGアニメーションとあって、期待に胸をふくらませていたのだけれど、実際に觀てみると案の定で矢吹丈。フィンチャーの名は宣伝のためのお飾りに過ぎず、直截的に作品を手掛けているわけではなかった。
にも関わらず、いずれの作品もクリエイティブでとんがった粒ぞろいではないか。中でも『わし座領域の彼方』と『ジーマブルー』の2作品は、強烈な衝撃を受けた。
久方ぶりに驚喜し、熱中したドラマシリーズ。時間があればもう一度全部観直したい。
2: バッド・ブラッド シーズン2
カナダ版『グッドフェローズ』と称されたシーズン1。当初の予想に反して、その圧倒的な人気から急遽決まったシーズン2。無理やり作ったと言うわりには、むちゃんこ面白い。
どんなトラブルすらものともしないデクランというタフな主人公──その魅力的な人物がいる限り、このシリーズはどこまでも続くんじゃなかろうか。シーズン2では、甥っ子ちゃんが登場し、シーズン1とは違った形でデクランの「家族」が描かれる。
しかし、悪人にはそれ相応の報いが待っているわけで……このあたりのドラマの描写もよかったなぁ。
この記事書いてて気づいたんだけど、不肖かまして『バッド・ブラッド』のレビュー記事書いてなかったな……ま、いいか。
さてさて、駆け足ではありましたが、2019年をざっくりと振り返ってみました。
今年は職場の環境も変化し、プライベートの環境も変化し、なにかと多忙な一年でございました。それを言い訳にせず、来年は時間を捻出して映画館へ足を向けたいと思う今日この頃。来年は大作が次々と公開され、映画ファンとしては楽しみな年でもあります。
最後に。細々と続けてきたHush-Hush: Magazine
見切り発車で初めたこのブログをなんとか一年も続けてこられたのも、ひとえに読者である皆さまのおかげでございます。一人の映画ファンの好き勝手言いたい放題なレビュー記事を読んでくださる寛大な読者諸氏へ、心からの謝辞を。ありがとうございます。
今年もあとわずかですが、よいお年お迎えください。次の一年が、皆さまにとって光り輝く良き年となりますように。
パトリック・シルベストル