Hush-Hush: Magazine

映画の批評・感想を綴る大衆紙

ゲーム・オブ・スローンズ:史上最高のストーリーがここにある

ゲーム・オブ・スローンズ

 

この記事は容赦なくネタバレしていくので、ゲーム・オブ・スローンズをシーズン8まで未見の不幸な人は今すぐ回れ右するんだ。いいな、警告はしたからな!

 

 

お久しぶりでございます。約2カ月半ぶりの更新。皆さまいかがお過ごしでしょうか。私、同人活動の方が焦眉の急でございまして、かれこれ今年に入ってから一度も映画館に行けておりません……あら、また、ひろし(荒俣宏先生ね……)

ふむふむ。「そもそもお前だれだよ」って心の声が聞こえたような気がしたので一応弁明しておくと、ワタクシちゃっかりペンネームを変更いたしやした。でもって、筆名変更の擾乱に乗ってこのブログのデザインも刷新。かなり簡便に、質素に、高野山スタイルで統一いたしやした(禅宗の方々に謝れ)

と言うのも、Google先生が提供するサイトの表示速度計測サービスで従前のデザインを読み込んだところ、スコア表示がまさかの19…… 50点満点とか、そういうのじゃないのよ!100点満点なの! これ高校生だったら確実に追試→留年の地獄の道行きをたどるパターンのやつ。

最初は赤点を取っても追試で挽回する捲土重来タイプだったワタクシ。えぇ、やってやりましたよ! 乾坤一擲、重い腰を上げて、サイトデザインの刷新というクソ面倒くさい作業をやってやったわけですよ奥さん。

で、でね……聞いてよ……

そこまで骨折って色々とCSSのインライン化やらjqueryをはてなのヤツに統一とか手練手管を駆使した結果………スコア49

 

( 」`□´)」<留年確定やないかい!! なんでやねん!スパルタ過ぎるやろ!

 

ソフトバンクユーザーたる私の4G通信で1秒足らずでページ読みこん取りますやん!!何があきまへんの? ねぇ、アスカ、答えてよ……アスカぁ!(あ、エヴァの旧劇場版の冒頭ネタね)

はてな民の特権とも言える「はてなスター」すらも表示速度に影響を及ぼすとか云々で泣く泣く削除したのよ……はぁー(´・ω・`)

悪ガキ小学生の3段活用──「はぁ?」「無理」「意味分からんし」──状態ですわ。 まぁ、そんなこんなと、この二ヶ月半の間にも色々とあったワケなのでございます。

 

さてさて、ようやく本題へ(毎度のことながら遅いわ)

多忙を演出するべく、散々と陳情を並べ立てておいてアレなんですが、ワタクシこの二ヶ月半の間に人生で最大級のハマり方・のめり込み具合を体験いたしました。

 

ゲーム・オブ・スローンズ

 

そう。Imdbでスコア9.3という驚異的な数値を叩き出し(これは100点満点じゃないからな)、皆がみんな口を揃えて称揚するかの歴史大河。ようやく観たんですよ。 かの偉大なる孔子は言いました。同じ作品を3人以上の口から聞いたなら即座に観よ。(言ってない)

ゲーム・オブ・スローンズ(以下、長ったらしさいのでゲースロで統一)に至っては3人どころか10人くらいから猛烈なレコメンドを受けておりました。だがしかし、それでも意固地に観ないのが私という人間なのです。だけど、あまりにも推薦されるので根負けして観始めました。えぇ。ようやく。シーズン1の7話分を半年かけて観ましたわよ。もはや牛歩どころかノミの一歩。

ところがギッチョン。

青天の霹靂とも言うべき激震が走ったのがシーズン1の第8話──

 

((((;゚Д゚))))うぉえっ⁉ なんかよく分からんけど、お、お父ちゃん死んだぁあああ!!!

 

もうね、これ以降は疾風怒涛。一気呵成に観ましたよ。否、止まりませんでしたよ。断食明けの翌日のごとく、無我夢中で次話をかっ食らう。ついでにポテチも貪り食う。そんな状態。 少し真顔になって言わせてもらうけど、純粋にストーリー単体で捉えたとき、『ゲースロ』以上に面白いと感じた作品は今まで無かった。面白い映画とか小説とか、ノベルゲームとか、全部引っくるめてもこれほどの上質かつ重厚なストーリーを味わったのは生まれて初めてだったのである。一オタクとして、これまでそれなりに映画とかアニメとか、多種多様なエンタメ作品を堪能してきたつもりだった。

だがしかし……So but

『ゲースロ』はそんな凡百の作品には及びもつかない超弩級のエンターテイメント大河だった。 語りたいことは山ほどある。というか、迸るこの思いを文字だけで書ききれるのかという不安すらよぎる。まぁとりあえずいってみよーかどー(ネタが古いわ)

 

濃厚なドラマ

Game of Thrones (c) 2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved.HBO(R) and related service marks are the property of Home Box Office, Inc. Distributed by Warner Bros. Entertainment Inc.


観る前と観た後では世界が違って見えるほどの衝撃──決して誇張ではなく、それくらいの衝撃を受けた『ゲーム・オブ・スローンズ』

 

シーズン8もある海外ドラマを観終えたのは初めて。かの『ハウス・オブ・カード』ですら、ケヴィン・スペイシーが降板してのちは観なくなったし。最初は富士山の麓から頂きを見上げたようなとてつもない億劫さを感じたものだったが、それも杞憂。観始めたら止まらん。止まらん。マジで止まらん。正直、シーズン8ですら短いと思えるほどの物足りない感を味わうハメになった。

『ゲースロ』のなにがスゴイか。それは重厚極まりない人間ドラマに尽きる。カルピスの原液のような、コテっとした人間ドラマ

2時間以内ですべてを語り終える必要のある映画と違って海外ドラマの強みはその長尺を活かした人間ドラマにある。これはかのデヴィット・フィンチャーも認めるところで、そろそろ映画でやりたいことをやり尽くした感のあるフィンチャーはネットフリックスで『マインドハンター』なるスリラーを撮った。でもね、『ゲースロ』の人間ドラマは濃さが違う。濃度の桁が違う。

まず把握しきれないほど大勢いる登場人物。シーズン2あたりでは、1エピソード終わるごとにネットでネタバレ踏まないように気をつけながら人物相関図やら家系図を参照しないともうワケワカメでした。 でもって、それら大量の登場人物たちが次々と、あまりにもあっけなく唐突に死んでいく。「うぇええええ⁉ そこで死ぬのか⁉」って思わず叫びたくなること多々ありました。

とくにロブ・スタークとキャトリンの一幕。次に悪帝ジョフリーの唐突な退場。 あまりにも呆気なさすぎて、寝耳に水すぎて腰を抜かすかと思った。初めてこれらのシーンを観たときは、その急転ぶりにただただ驚くだけで精いっぱいなんだけれど、時間を置いてからふと思い返すと、すごく自然なのよね。腑に落ちるというか、まぁそうなって然るべき、当然の報いだよなと。そう、『ゲースロ』がかくも面白い最大の理由は「すべての出来事が自然だから」──この一点に尽きるわけなのですよ。

たなぼた式に玉座を手に入れたジョフリー坊やは眠っていた暴虐性を開花させ、子どもらしい純粋ながら残虐な好奇心からエダード候の首を撥ねる。子どもが子どもなら親も親。子どもを溺愛するサーセイは、その愛ゆえに降りかかる火の粉を数倍にして返す。それが次々と軋轢を生み出し、厳格にすぎる父親タイウィン・ラニスターは不具の息子に殺される。それと同時に、ウェスタロスの方々では各家々が──スタークが、グレイジョイが、ボルトンが、ベイリッシュ候が、バラシオンが──玉座を狙って暗闘する。一方そのころ的な感じで、大陸の向こう側では非業の女王にして高潔たる奴隷解放者デナーリス・ターガリエンが着実にその勢力を伸ばす。

複数の場所で同時に進行するこれらの出来事そのすべてが、各キャラクターたちの自然な行動として描かれる。暴政を敷いた報いを受け反徒によって家族を虐殺されたデナーリスは当然のこととして玉座を奪い返そうとするわけだし、血と暴力にまみれた父親の過去を散々聞かされて育ったがゆえにその反動で奴隷を解放していく。

狂ったメンツしかいないラニスター家の良心、ティリオンはそのしたたかな手腕でもって如才なく振る舞う。ティリオンの根源にあるのはヴァリスと同じ、「この国を安定させること」だ。本気で惚れた娼婦シェイの裏切りからついに父親を殺す決心をつけた──たしかにこれは受動的かもしれないけれど、この悲痛な事件によってティリオンは「国のために動く」決心を固めるのだ。

それから、ナイツウォッチへと派兵されたジョン・スノウ。シーズンを重ねるにつれてジョンの権力が次第に増していくさまはなんとも心地よかった。かと思いきや、シーズン8になるや「お前はどうしてそんなに馬鹿なんだ」と誰もが思うような愚行を重ね、揚げ句の果てが「壁」への再送。「どうしてこうなった」の典型例として後世に語り継がれること請け合いである。「You know nothing. Jhon Snow(あんたは何もわかってないのね、ジョン・スノウ)」──野人のヒロイン、イグリットの放つこの台詞が、結局のところジョン・スノウという人物を的確に言い表していたという壮大なオチ。

こんな書き方してるけど、ワタクシ、ジョン・スノウもといエイゴン・ターガリエンのことは嫌いじゃないからね。あの高潔であらんとする一途なまでのひたむきさ。あの気概。沈欝で暗澹たるゲースロの世界観において、唯一光る良心の輝き。ゲースロの世界は仮借ない。良心の発露をちらつかせた人物はことごとく抹殺される。それもなかなかに残酷な方法でもって。そんな中、良心を失わず保持し続けながらも辛くも生き残る数少ない人物──それこそ我らがジョン・スノウにして玉座の正当な後継者エイゴン・ターガリエンなのである。

で、結局なにが言いたいかっていうと、これらの膨大なプロット(出来事)のすべてが自然なのよ。あるべきところに行き着くといった感じ。どれだけ小面憎い悪役でも、すぐに退場する端役でも、すべての人物に確固たる意志があり動機があり、各々の目指すゴールに向かって行動する。しかもそれを膨大な登場人物すべてに適用させる。

 

なんだこの偉業。神の御業か。

 

驚嘆することに、原作者のジョージ・RR・マーティンはこれらの壮大な作業をすべて頭の中で行っているという。なんだろう……本当に同じ人間だとは思えないんだけど…… 「すべての出来事が自然」私が冒頭から何度も繰り返しているこのフレーズ。ここでちょっと考えてみてほしい。すべての出来事が自然ってことは、それだけ現実的ってことで、それはつまりゲースロの世界観そのものが現実と遜色ないくらいリアルだということになる。ファンがジョン・スノウの死を嘆き悲しむとき、そこにあるのは実在する人物を失ったときの悲嘆であり、ホワイトウォーカーが「壁」をぶち壊して進軍を開始したとき、その恐怖に打ち震えるのはまるでそれが現実の出来事のような受け取り方をしているからに他ならない。

そう、リアルなのだ。

ウェスタロスという大陸、ひいてはゲームオブスローンズの世界の中に私たちはどっぷりと浸ることができる。まるで自分も登場人物の一人になったかのように、あの雄大無比な世界でシーズンにして8つもの時間をたしかに生きていたのだ。それこそ神が世界をつくるように、原作者のジョージ・RR・マーティンは現実と見紛うほどリアルな架空の世界を創り出した。すべての出来事が自然で、まるで生きているかのようなキャラクターたちが織りなす人間ドラマ。ゲームオブスローンズが傑作なのは他でもない。ファンタジーという虚構を描きながらも、そのじつ現実的であるという点にある。 で、次の話題に移る前に私の心の叫びを聞いておくれ。膨大すぎる登場人物たち。彼らに感情移入しすぎて言いたいことが山ほどある。

 

おまえら、大好きだぁ!

以下、各人に向けた心の叫び。

Game of Thrones (c) 2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved.HBO(R) and related service marks are the property of Home Box Office, Inc. Distributed by Warner Bros. Entertainment Inc.

ティリオン・ラニスター

ゲースロの中で私が一番好きな人物がティリオンである。

良心! この渾沌とした世界の中で数少ない善なる体現者!!

軽妙洒脱な台詞を連発するユーモラス。低身長をものともしない堂々たる構え。口では諧謔を並べ立てながら、シェイに対する思いだけは本物だったというイケメンぶり。一度は王の手に叙任され、ようやく父親に認められたと喜んでいた矢先にまさかのタイウィン候の王都入り。それからあれよあれよと事態が進展し、揚げ句の果てにシェイに裏切られる……

政略結婚させられたサンサへのジェントルな対応もよかったなぁ。床に入ったサンサを見て、ふと劣情に駆られ、そんな自分を──過去のティリオンなら手を出してたはずだ──理性で言い含める。あの葛藤。そしてそれを台詞ではなく全身で表現したピーター・ディンクレイジの妙。

どこか垢抜けない感じの従士、ポドリックとの関係もよかった。しかし、ポドリック、成長したよなぁ。一度は剥奪された王の手を、今度は女王の手としてデナーリスから授けられたときのあの涙。ゲースロの中で一番心に響いたシーンの一つ。

 

タイウィン・ラニスター

で、これだけティリオンを持ち上げておいてアレなんだど、ワタクシ個人的にはタイウィン・ラニスターもなかなか気に入っておりまして……いや、ほら、ティリオンへの奸悪な仕打ちはさて置きですよ、あの老獪ぶりというか、伊達に歳喰ってねぇなコイツみたいな強かさが好きなんですね。

孫でありながら王でもあるジョフリーの放埒な命令に対しても、反論したい気持ちをおくびにも出さず淡々と──しかし目には怒りを滲ませて──受理するあのカッコ良さ。

なんだろうな。上司の理不尽な要求にも淡々と応える優秀な部下というか。どこか現実的な強さがあって好きなんです、ワタクシ。まぁ、だからといってティリオンへの仕打ちが赦されるわけじゃないんだけどね。アレはあかん。どうせ殺るんなら裁判なんか開かずに刺客を送り込むなり何なりして正々堂々と、もっと直截的に殺すべきだ。でも、あの陰険な遣り方がいかにもタイウィンらしいのも事実なんだけど。

 

サー・ジョラー・モーモント

デナーリス大好きな寡黙な騎士。私、この一本気なオジさんがめちゃくちゃ好きでねぇ……

「女王、好きです!」

「…………」

「女王、愛してます!」

「……追放」

顔面蒼白なモーモント。

「戻ってきました、女王!!」

「……黙れ裏切り者が」

意気消沈のモーモント。窮地に陥った女王を救い出し、そして……

「女王、わたしやぁやっぱりお側に居れませんわ。探さんでください。わたしゃ消えますんで」

「そんな勝手なことは許さないわ。必ず治癒して帰ってらっしゃい」

「……じょ、女王……」

涙うるうるモーモント。 そしてシタデルでの苦痛を経て快癒──のちに帰還。

「女王! 帰ってきましたぜ!」

「よし、なんか白い奴が来てるから行くわよ」

「御意に!」

で、ホワイトウォーカー戦で最後まで女王を守って散華。

 

カッコ良すぎるやろ!!! なんやねん、この不器用すぎる生き方は!!!

 

愛に生き、忠誠を誓い、愛の中で死んでいったモーモント。なんだこのイケメンな生き様は。カッコ良すぎる。というか不憫すぎる。どれだけ追っ払われても帰ってくる気概と至誠。理想の主従関係。でも女王とはあくまで仕える側と命じる側という関係であって、どこぞの二枚目のような愛人関係にすらなれない。

なんという不憫さ!!!!

ウィンターフェル城でジョン・スノウから父の遺品であるヴァリリアン鋼製の長剣を渡されたときも、「いや、それはお前が持っておくべきだ」とか言っちゃうカッコ良さ。もう大好きっす、モーモントぱいせん。

 

ヴァリス

こら、彼のことを「玉なし坊主」とか罵った奴、ちょっと表出やがれ。

ピーター・ベイリッシュと並ぶ密告の長、ヴァリス。たしかに玉は無い。本人もなかば自虐的にそれをネタにしている節はある、それは認める。

だがな、このヴァリスがいなかったらティリオンは助からなかったんだぞ。デナーリスとティリオンという最強のカードを引き合わせたのもヴァリスだし、最後まで国を憂いて行動していたのはヴァリスなんだぞ。

隠微でわかりにくいけれど、ヴァリスは善なる人なのだ。本気で国の行く末を案じている数少ない一人なのだ。ただ想いを抱くだけではなしに、そのための手段もちゃんと考えている頭脳派。それがヴァリスという男なのだ。

柔和な印象が目立つヴァリスだが、自身の玉を奪った男を突き止めて復讐する強さを持った男でもあるのだ。あのギャップ。というかあのシーンのヴァリスほんとに怖かったよ……

 

アーリア・スターク

ゲースロの中で一番の変貌を遂げた非業の少女。その驚異的な変遷はYoutubeに動画があがっているので是非観ておくんなます。

最初こそ王都で剣の練習なんてやってたけれど、気がつけばタイウィンの召使いとなり、あれよあれよとニードルを取り返し、ひょんなことからハウンドと共に旅をし、そして幾多の顔の神によって完璧な暗殺者となるあの変遷ぶりたるやもう……

数々の試練を乗り越え、ようやくウィンターフェルへと帰還したアーリアの戦闘能力は、かのブライエニーを凌ぐほど。いやぁ、強くなったなぁ、としみじみ実感。

それにしても、夜の王に跳び掛かった瞬間はあまりにも素早すぎて何が起こったのか分からんかった。で、完全に油断してたところへ、ゲースロ恒例のベッドシーンというオチ。あれホントに必要だったのかなぁ……

ハウンドと王都に乗り込んでのち、別れ際になって言う「ありがと」の一言に二人の思いが詰まってて感涙。

いやぁ、それにしてもホワイトウォーカー戦の「NOT TODAY」は反則やわ……もうオイちゃんボロ泣き。

 

ルース・ボルトン

これまたクセの塊のようなルース・ボルトン候。息子の嗜虐趣味に目を瞑り、利得のためにと不器量な妻を娶る。そういう男なのだ、ルース・ボルトンは。どこまでも人格的に破綻してて、感情が欠如している。やることなすことその全てが上っ面で、本心なんて誰も知らないし分からない。

ねぇ、ボルトンのオジさん。

そんな悪辣ぶりを発揮しておきながら、どうしてそんなに良い声してるんですか!

やってることはえげつないのに、あのジェントルボイスがその悪行を覆い隠すのよ。なんだったら、こいつホントは紳士なんじゃないかとすら思えてくる始末。あの朗々たる声量という一点において、ルース・ボルトンが好きなのであります。

 

サーセイ・ラニスター

「憎まれっ子世に憚る」この言葉を体現したのがサーセイ・ラニスターという悪女である。あれだけの悪徳を積んでおきながら、どうして最後は最愛の人と仲良く死んでいったのか。神様とはどこまでも理不尽を科す存在なのであります。

サーセイが好きなんて言うと炎上必至なのではありますが、ワタクシ、母親としてのサーセイは好きなんですよね。あ、もう一度言いますけど、母親としての。ね。

考えてもみてほしい。サーセイがやらかした数多の悪行──ジェイミーにブランを突き落とさせたり、教会に武器を与えたり、アーリア捜索のために王都中の子どもを虐殺したり。それもこれも、すべては子どもへの愛ゆえの行動なんですよね。その証左に、あれだけ小面憎い悪女が子どもたちの前では尻尾を下げた犬のごとく静まり返る。

あの愛は本物ですよ。

幼くして嫁に出され、ロバート・バラシオンのような色恋多い豪放な男の妻として幾多の苦難に耐え忍んできたのでございます。そんな苦節を耐え忍ぶことができたのも、すべては子どもを愛するがゆえ。子どもたちがいたから生きてこられた。そう語るときのサーセイには底光りする誠実さがあるのであります。あれだけ子どもを溺愛できるというのはひとつの才能だと思うのです。

だからその一点において、母親としてのサーセイは好きなのです。

ただ。ただし……

かといって教会もろとも嫌いな奴をまとめて吹っ飛ばしたのはアカン。やり過ぎやわ……

 

没入できる世界観を用意するということ

Game of Thrones (c) 2019 Home Box Office, Inc. All rights reserved.HBO(R) and related service marks are the property of Home Box Office, Inc. Distributed by Warner Bros. Entertainment Inc.

ゲースロの醍醐味。それは圧倒的な世界観である。ウェスタロスという広大な大陸。そして海を挟んだエッソス等の町々。劇中で登場しなかった場所も含めて、かの世界はどこまでも広がっている。翻って言えば、画面の中に登場する場所というのはあの世界観の中のほんの一部に過ぎないのだ。

ではどうして画面に映っていない世界の外側にまで意識が及ぶのか。どうして画面の外側の光景がありありと思い浮かぶのか。 膨大な数のエキストラ。誂えられた彼らの衣装、衣装、衣装……その数たるや想像すらできないほど。作り込まれた建物。精緻なVFX。それらすべてが、壮大な世界観の構築という一大事業に一役買っているわけだ。

かの高名なSF作家フィリップ・K・ディックは言った。「私の使命は3日後に崩壊しない世界をつくること」だと。そうだ。私たちはあの世界に浸りたいのだ。現実ではないどこか。まったくもって架空の世界でありながら、たしかに存在すると感じられるほどにリアルなあの世界に。

ドラスク語も、ヴァリリアン鋼も、ナイツウォッチも、ロード・オブ・ライトも──すべての要素は、あの世界観を確固たるものにするために用意されたファクターなのだ。

 

最終章のアレについて

惜しむらく終幕を迎えてしまったゲースロ。まだ観始めていなかった私でもシーズン8のラストについて非難轟々だったのは聞き及んでおりました。それゆえ、覚悟してシーズン8を観たのですが……

うん、まぁ言わんとすることはわかる。 いかんせん、1話あたりの製作費が高騰しすぎたんだろうな。『センス8』と同じ末路。ファンの期待に比例してバジェットが上がりすぎた結果、失敗できなくなったというか、これ以上は無理っていう臨界点にまで達してしまった。そんな印象を受けたシーズン8でございました。

あれだけ戦々恐々としていたホワイトウォーカーは、いともあっさりやられるし、戦闘シーンは何が起こってるのかわかんないほど暗いし、でもってジョン・スノウの冷遇っぷり。なんといっても、きわめつけはデナーリスの王都焼尽ですよ。

どうしてそうなった……

とまぁ、ぎゃーぎゃー喚いてるファンの気持ちも大いにわかるんだ。わかるんだけれどもね、だからって署名活動までやるのはちょっとやり過ぎだと思うんだわ、ワタクシ。

さすがに失礼でしょうが。わきまえろ痴れ者。と言ってやりたい。

シーズン8の製作を記録したドキュメンタリー『ラスト・ウォッチ』を観たまえ。どれだけのスタッフが、いかに苦心惨憺して最終章を撮りあげたか。舞台裏の壮絶な仕事ぶりを観たら、口が裂けても署名活動の「しょ」の字も言えないはず。いやむしろ、最後まで私たちを楽しませてくれて、夢を見させてくれてありがとうと言ってしかるべき。

だから私は言いたい。圧倒的感謝を込めて製作に携わったすべての人々に。

最高の映像体験をありがとう。